⑪美しい姿勢とは

⑪美しい姿勢

⑩までのレッスンで声楽に必要な基本の3つを説明してきました。ここからはその3つから派生するポイントを一つずつテーマに沿って解説します。

⑪では姿勢についてです。
姿勢はとても重要です。
歌いにくい、声が引っかかる、高音が詰まる、という問題も、もしかしたら姿勢が関係しているかもしれませんよ。

前の項でもお話ししましたが、声が響くためには筋肉の干渉を極力抑えなければいけません。
そのためには前傾姿勢にならないこと。
まず、歌ってない状態でまっすぐ立つ練習をしましょう。

なんだ、そんなこと、まっすぐ立つなんて簡単でしょ。
と思うかもしれませんが、これが案外難しいのです。
特に現代人の私たちは猫背、巻肩で頭が前に乗ってしまっています。
これは若者も同じです。

スマホやパソコンでさらにこの傾向は強くなっているといえます。
試しに普通にまっすぐ立ったと思う状態で鏡を見てみてください。
手はどこにありますか?

猫背・巻肩の人は手が体の前寄りに垂れて、手の甲が前に来ます。
つまり鏡に手の甲が映るのです。

猫背・巻肩でない人は腕の付け根の骨は体の真横に付いていますから、手は横に垂れ、中指がスカートやスラックスの横の縫い目に沿うはずです。
鏡で見れば手の親指は見えていますが手の甲は見えません。

また、猫背・巻肩の人は頭が体の前に前傾しやすくなります。
頭が前傾すると、それを支えるために筋肉が数十キロも体全体で働いてしまうと言われています。
ボウリングのボールを持ったまま体の前に手を伸ばすことを考えてみてください。
前に伸ばせば伸ばすほど腕は耐えられなくなりませんか?

猫背・巻肩・頭の前傾の姿勢だと肋骨が十分開かないので呼吸も自然に入ってこず、どうしても余計に吸いたくなるので、胸式呼吸になりがちです。
また首が傾斜するので声帯の上部、つまり咽喉腔が曲がってしまい、声帯から出た音を反響させにくくなってしまいます。
悪いことずくめなのです。

上手に立つためのコツは、骨を積み木のようにまっすぐ積み上げた上に頭蓋骨を乗せること。
体を柔らかくしようと、膝を曲げる人がいますが、これでは横隔膜を上げきることができません。

また膝をロックする立ち方も不自然な力が入ります。
積み木がまっすぐでなければ筋肉で支えることになるからです。
漫画の図のように、耳、肩、骨盤、膝、くるぶしが一直線になるように立つと、もっとも筋肉の干渉を受けにくく、なおかつ胸骨が広がった形になります。

また頭は体の上ではなく、背骨の上に載せましょう。
そうすることで耳のラインが一直線になります。
この姿勢はバレリーナをはじめとするダンサーたちの姿勢と似ています。
私はよく、宝塚の男役のスターのように立ってごらんなさいと言います。
この姿勢は背筋で支えるので、これが苦しいときは背筋が衰えているのです。

歌を歌うときだけこの姿勢をしようとすると、かえって頑張ってしまって逆効果になることがあります。
私も若い頃は猫背だったので、普段の姿勢を直すことから始めました。
電車をホームで待つ数分間、美しい姿勢で待ってみると、すごく苦しいのです。
この数分間が耐えられるようになるまで一ヶ月、そのあと電車で目的地に着く間キープできるようになるのに一ヶ月、いつしか歩くときも苦しくなく、かえって気持ちがいいと思えるようになりました。
それと同時に背筋力がかなりつきました。
歌で腹筋を鍛えるという人がいますが、必要なのは背筋なんです!

そうやって、まっすぐ立つことが楽になると、歌うことも徐々に楽になります。
それでもまっすぐに立てないときは、後ろで手を軽く組んで歌ってみてください。
体全体に声が響いているような感じはしませんか?
管楽器のように体が一本のまっすぐな空洞に感じたとしたら、それが「まっすぐ」の姿勢です。

巻肩の人は、後ろに組んだ手を上に持ち上げてストレッチしてからいったん手を戻してみることもおすすめします。
手の位置が前から横に少し移動していませんか?
即効性があるので、歌う前にやってみてください。

さて、歌に適した美しい姿勢、いかがでしたか?

オペラなどでは、座ったり、ことによっては寝そべって歌ったり、演技をしながらではとても姿勢なんてキープできそうもないと思うかもしれませんが、よく見ると、上半身の形のキープは同じなのです。
ながくまっすぐ立つことを訓練できると、声がどのように体を通るかがわかってくるので、寝そべってもその形を維持できるようになるのです。頑張ってチャレンジしましょう。
Let’s try !

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