⑩支え(ソステーニョとアッポッジョ)
⑩支え
さて、3つの発声の基本のうち、最後は「支え」です。
今までの「響き」や「呼吸」から比べると一番わかりにくい言葉ですよね。
私も若いころはわかったようなわからないような気分でいました。
「支え」の考え方の基本は「息を吐く(声を出す)ときに横隔膜を上に押し上げていく動きをどう支えるか」ということです。
そんなの簡単、勝手にそうなるんじゃないの?って思いませんか?
でも声楽の場合は違うのです。
まず「横隔膜」とは何かを説明しましょう。
横隔膜は肺とその下の内臓を隔てている筋膜です。
お椀を伏せたような形をしていて、前はみぞおちのあたりで肋骨と腹筋につながり、後は腰椎と背筋につながっています。
横は肋間筋とつながっています。
肺は袋状になっているように感じる方が多いと思いますが、肺自体は肺胞と言う小さなブドウの房の集まりです。
袋状になっているのはその外側の肋膜や横隔膜で、空気が漏れないように閉じているのです。
袋をいっぱいに膨らますと息が入ることになりますから、その時横隔膜は下に下がります。
息を吐き出す、または歌っていくと横隔膜は上に上がって行きます。
この横隔膜を上手に動かすためには、なめらかに、とまらずに、力まずにの3点が重要です。
横隔膜自体に感覚はありませんし、ダイレクトに動かすことは出来ません。
動かすことが出来る筋肉は動かせる骨につながっている筋肉だけなので、横隔膜が繋がっている腹筋や背筋を動かすことによって間接的に横隔膜を動かすのです。
「呼吸」のコーナーでも書きましたが、胸式呼吸だと胸の筋肉を力ませてしまうので舌根が上がります。
横隔膜を何も考えずに上に引き上げようとすると、胸の筋肉(大胸筋)が動きませんか?
これでは胸式呼吸とおなじことになってしまい、声は固く短くなります。
肩、首、胸をつきたてのお餅のように柔らかいまま横隔膜を引き上げるには下から支えて持ち上げなければなりません。
この上に向かって下から引き上げる支えのことを『ソステーニョ』と言います。
支えのコツは、漫画にあるように①のみぞおち付近を固くしないようにして腹筋の下部分②をゆっくり後ろに押すようにして引き上げ、背筋③部分につなげて支えて行くようにします。
この引き上げの時、ただ引き上げるだけでは胸に力が入ってしまいます。
また重心が上に引き上がってしまい、かかとが浮いてしまったりします。
ハミガキのチューブを思い浮かべて下さい。
最初のうちはチューブを軽く押しただけで中身はプニューッと出てきますが、最後を使い切りたいときはチューブの首元を押しながら尻尾の方をしっかり支えて持ちますよね。
この引き上げるのを支えるために下に引く動きが第二の支え、『アッポッジョ』です。
ハミガキと同じで最初は支えなくても大丈夫ですが、息の後半、横隔膜を上に引き上げ、さらに息を吐き切るときに腰からかかとに向かって重心を落として行くことで、上半身をリラックスさせたまま息を流し続けることが出来ます。
つま先ではなく、かかとに向かって落としていくことでみぞおちが固くなるのを防ぐことも大事です。
最後に。
「支える」という言葉にはなにか力を込めるイメージが付きまとう人もいます。
間違えないで頂きたいのは、ベルカント唱法で歌うということは「筋肉の干渉を出来る限り受けない」ということ。
どこかに「力を入れる」と言う感覚があったら「違うんだろうな」と思って下さい。
とは言っても全身の力を抜いたら立っていられませんよね。
支えはバランスでもあります。
力ではなく支えると言うバランスをうまく見つけて下さいね。