⑦響きとは
≪解説≫
⑦響きとは
声楽の3つの基本の中で、まず一番目の「響き」について説明していきたいと思います。
その前に自分の声ってなんでしょう。
声帯から出るもの?
確かにそうですね。声は声帯を使って出します。
前の項でも書きましたが、声帯自体は長さ、厚さなど少しの違いはあるものの個人差は小さいのです。
声帯の音と言うのをテレビで聞いたことがありますが、ザラザラした小さい雑音のようでした。
声帯から出た音だけをもし抽出して聞き分けるとしたら誰の声だかわからないでしょう。
「あっ、お母さんの声だ」と聞いてすぐわかる「声」はそのあと音が伝わる空洞の形によるものなのです。
よく親子の声が似るというのは、骨格が似ているので空洞の形も似ていて、結果、声が似ているのです。
その空洞をいかに効率よく響く形に整えるか、そして絶対的条件としていかに広く保つかが「響き」のカギになってきます。
広くと言っても横に広いのではありません。
コンサートホールや古い大聖堂を思い浮かべて下さい。
天井が低い所は見たことがないですよね。
かつてマイクがない時代にも、聖歌を歌う声が豊かに響くために、大聖堂の高く丸いドーム型の屋根が使われました。
同じく声帯から上の楽器部分はなるべく縦に広く、かつなめらかな丸い形に整えると良いのです。
でもどうやって?
それが難題ですよね。
自分では見えないですし、自覚も出来ないのですから。
うまく響いたと思っても自分の骨伝導や内耳を通った声は自分だけに聞えている声です。
それが人に同じように聞こえているとは限らない。
いえ、それどころか自分に良く響いて聞こえているときは、人には聞こえない声である場合がほとんどなのです。
ここが最も声楽のやっかいなところです。
「うわー、私って上手~。」と思っても録音を聴くと、「あれ、響いてない」「喉が詰まった声のように聞こえる」なんてことはありませんか。
私はこれを説明する時に「一人前作った料理を自分で食べて『美味しい』と満足しているということはお客様は食べてないということですよね。逆にお客様が『美味しい』と言ってくれる時は自分は食べてないから美味しいかどうかわからない、そんなイメージだと思って下さい」と言います。
声を出す時、口腔の中でこもらせるようにすると最も自分に聞えやすくなります。
これが自分で食べている状態。
軟口蓋をあけて、鼻腔に声を通すと、あくびをしているときに声を出すと遠いところから自分の声が聞こえてくる状態になります。
自分では満足できない声ですが、これが自分では食べずにお客様に食べてもらう状態です。
ですから自分ではいい声と言うのはわかりづらく、先生やコーチなど、的確にアドバイスしてもらえる人が必須なのです。
このやっかいな「響き」の項では3つの空洞(正確には肺も入れて4つですが、これは呼吸の項で触れることにします)について説明します。
声帯から上の空洞は3つ。
鼻腔、口腔、咽喉腔ですが、まず鼻腔について解説したいと思います。
鼻腔はこの3つの中で特に広いスペースを持っています。
目の後ろのやや下から頬骨の後ろもすべて空洞です。
自分の体の位置や形を自分で認識することをマッピングといいますが、空洞の広さをマッピングすることで、そこに音を当てやすくなるのでしっかりイメージしてください。
鼻腔の中は粘膜で覆われています。
上部は脳ですが、その境界には骨はありません。
つまり柔軟性はあるのですが、粘膜は筋肉ではないのでそれ自体が動くわけではなく、接している骨や筋肉を動かすことによって間接的に形と広さを作るのです。
鼻腔の目のあたりにある部分はイタリア語でマスケラと呼びます。
マスケラは仮面舞踏会などで目の周りを覆うマスクのことで、そこに声が当たると非常に響きます。
ここを響かせるための筋肉と骨の動きは、
①頭皮を引き上げること
びっくりした時に眉が引きあがり、目が見開かれますよね。その時使うおでこやこめかみの筋肉を思い切り頭頂にむかって引っ張り上げます。
ポニーテイルを結ぶあたりに向かって頭の皮全体が引っ張られるイメージです。
さらに鼻からおでこの中心に一本の線を結ぶように強いひっぱりを作ると、より響きが集まりやすくなります。
②上の歯からおでこまでは骨を前に動かす
中高の顔を作るように骨を前に押します。
おでこ、鼻の上部のへこんでるところ、鼻全体を押し出すように、高音では上の歯まで前に押し出します。
また同時に下あごは後ろに引くようにします。
ギリシャ人のようなおでこと鼻、頬骨が高い骨格に近づくようにイメージするのです。
ただし声を押すのではなく、あくまでも骨を押し動かして鼻腔を広げるイメージで行うこと。
あごを引くのも力が入っては逆効果になります。
ギリシャ顔というのはもともと鼻腔が広く、声が当たりやすい骨格です。
世紀の歌姫と言われたマリア・カラスもギリシャ系アメリカ人で典型的なギリシャ顔です。
上記の①②の努力は彼女には必要ないのかもしれませんね。
私たち日本人はテルマエ・ロマエじゃありませんが、残念ながら平たい顔の民族なので努力がより増えるわけです。
難しいですが徐々に動かせるようになるので根気よくやってみてくださいね。
歯を押し出すと言うのも骨格を前に出すイメージを持つことであって、歯を見せるということではありません。
歯が見えるのは唇に力が入っている証拠です。
口の周りの筋肉は脱力している方が声が良く響くので歯は見えない方が正解。
でも、高音で口を大きく開けるときに、唇に力が入らずに自然と歯が見えるのはOKです。
上の前歯が出ているひとは声が大きく音域が広い人が多いです。
クイーンのフレディ・マーキュリーさんや、歌い手ではありませんが、明石家さんまさん、柴田理恵さんなどは声が大きいですよね。
声が前歯に当たるというより、私は上の歯と下の歯の差が重要だと感じています。
ちょうどオウムのくちばしのような感じです。
そしてこの鼻腔をいくら広げて声が通るのを待っても、咽喉腔が狭いと声が上まで通ってくれません。
前傾する姿勢やあごが上を向く姿勢では咽喉腔が広く保たれないのです。
これについては次項の口腔と咽喉腔で説明しましょう。
なんだか難しそうになってしまいましたが、実際にやってみながら頭で理解する方が却ってわかりやすいと思います。
「私は骨格が悪いかも」と思う人もいるかもしれませんが、基本人間の声は誰もが響くように出来ているのです。
犬も大小あんなに種類があってもみんな近所に響く声で鳴きますよね。
大丈夫!自分のまだ見ぬ宝石を磨きましょう!