⑬息を回すことについて

⑬息を回すことについて

⑬ 息を回すことについて

「息を回す」というのは教師が生徒に対してよく使う言葉です。
よく使われる割にはわかったようでわからないフレーズですね。

「息を流す」とか「息を止めない」、「息をかぶせる」とか先生によって色々な言い方がありますが目指すものは一緒です。

「歌っているんだから息を止めないなんて当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、ロングトーンで高音を伸ばしているときに息が止まっていることは非常に多いものです。
またアジリタのような細かいパッセージで上の音を引っかけるように出すときも息が止まりやすいのです。
基本、ある一音を「目指して」しまうとき止まる頻度が高くなるようです。

息が止まっている声をホールで聴くとフッと音が小さくなったように、また詰まったように聞こえます。
よく響く声で歌うためには息を止めないで回すように、または流すように歌うことが重要なのです。

では具体的に「息を回す」とはどんなイメージなのでしょうか。

あくまでも私の感覚ですが、自分の頭蓋骨の内部ではなく、外側に一本の細い川、または空洞の管が弧を描いて回っているイメージをします。
顔の中心線を眉間から始まって頭頂部を通って後頭部に抜ける管です。
その川または管に息を送り込みながら歌う感覚です。

息を送るというと口で吐くことと混同しそうですが、口で吐くと頭蓋骨の外側を回る感覚にはなりません。
息の量が多すぎてハスキーな息の音が混じってしまいます。
また息は前に向かって出てしまうので、応援団のような胸式呼吸になってしまいます。
これは間違いです。

「息を回す」という表現は声楽初心者が誤解しやすいので注意が必要です。
私は「風を送る」や「水を流す」など色々工夫しますがそれでもコツをつかむまでは皆さん戸惑うことが多いようです。

たとえば鼻歌を思い浮かべてみてください。
鼻で「ふんふーん」と軽く歌うとき口から息は吐いてませんよね。
この鼻歌の時、鼻を通る道に息を通す感じが正解です。
下から上に息が抜ける感じがしませんか?

その鼻歌で「ふーん」と鼻腔に音を響かせながらそのまま口を開いて「ふーあー」と変えてみてください。
それが歌いながら息を回している感じに近いと思います。

この「息を流す・回す」というテクニックは美しい響きを作るために不可欠です。
姿勢だの口の開け方だの脱力だのと色々説明してきましたが、仕上げに「息を回す」ことが加わって初めてベルカント唱法は完成するといっても過言ではありません。

たとえて言うならクリスマスのチョコレートケーキ、ブッシュドノエルを作るとして、スポンジを焼いて、成形して、チョコクリームを塗って、最後に白い粉糖をかけるようなもの。
粉糖で雪を表わして完成ですが、「息を回す」のは粉糖のようなもの。
立ち方、呼吸、歌い出しの口の形など全部楽器作りを整えるまでが90%だとすると、最後の10%の息の使い方で魔法がかかるのです。

「息を回す」ことができると、力みを防いであごの力が抜けるので舌根が下がり喉が開きます。
それによって自然な響きの流れがそのまま鼻腔に伝わって豊かな共鳴になるのです。

この感覚はなかなか一人ではつかみにくいものなので、信頼できる教師とじっくり取り組む必要があります。
すぐにはわからないかもしれませんが、努力してつかみ取ったとき、得るものは大きいです。

是非頑張って自分のものにしてください。

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