⑭音を集める
音を集める
さて、声を響かせるための要素、「空洞の形と広さ」の他にもう一つ大事な要素があります。
それは空洞に当てるための音質を整える要素、「音を集める」ということです。
「音」にも質があります。
ふわっとした音、硬質な音、ハスキーな音、元の音の質がどうであるかによって反響の度合いも変わってきます。
例えば日本音名の一点イのあたりで口を大きく開けて「あー」と歌ってみてください。
ぼわっとした、太めの大きな声が出ます。
次に同じ音を口笛の形に口をすぼめて「おー」と歌ってみてください。
多分、最初の「あー」は集まっていない広がった音、「おー」は最初の音よりは集まった音になるはずです。
「集まる音」のイメージがわいたでしょうか。
ここを極めていくのが「音を集める」ということです。
音とは何か
「音」とは何でしょう。
音は音の粒子を波の形で伝えています。
これが音波です。
音波というと上下の波の形をイメージしますが、実際はピストン運動のように前後に空気を伝達させて音を伝えています。
このときに、音の質が重要になります。
「あー」の広がった音は、一点イ、つまり440ヘルツである「ラ」の音を出したときに、同時に439や441ヘルツの音も混じってしまいます。
直径の大きい面のような音というのでしょうか、ぼわっとした音になるのはこのせいです。
この音は近くではよく聞こえますが、少し離れたところでは聞こえません。
ヘルツのずれた音がぶつかり合って相殺してしまい、空気に伝えていく途中で消えてしまうのです。
反対に一見細く聞こえるような「おー」の音は集まっている均質な音なので、推進力が加わって空気によく伝わります。
うまく音を集めることができれば、遠くで歌っていても耳元で歌っているように音量を減らさずに届けることができるのです。
これが音を集めることが大事な理由です。
音を集めるには
集めるコツは、フレーズの最初から集めた声を出すこと。
広がった音をフレーズの途中から集めることは不可能です。
中音域は出しやすいので無造作に歌い、高音だけ響かせようとしてもうまく行かないのです。
フレーズの最初から注意深く集めて音を出し、その音を息を流しながら鼻腔に当てていくことが「響き」なのです。
最初の音をを集めて出すと、自分には細い声に感じるかもしれませんが、あくまでも音量は息を流す風速や風量によって作るもので、最初から大きな口を開けて力で声を押すものではないのです。
とにかく間違えないでいただきたいのは、集めるというのは声を喉で絞ることや、声に力を入れることではありません。
声楽初心者には「集める」指導はあまりしないのですが、その理由は誤解しやすいからです。
「集める」という言葉には「ぎゅっと」というイメージがありますよね。
それを口や喉でやってしまっては「喉を押す」ことになってしまい勘違いしてしまいます。
力まずに喉を開けて歌えるようになって初めて集める訓練をした方がいいように思います。
口で集めるのではなく、鼻腔で集める、またはおでこや眉間で集めるイメージで練習するといいのですが、うまく集まると自分には聞こえにくくなるので、声が小さくなったような気がします。
それなので、良い声は一人では作ることが出来ないのです。
是非信頼できる先生やトレーナーと声作りをしてください。
声を作り上げるのには忍耐と時間がかかります。
これは教える方にも言えることで、何回も何十回もレッスンで同じことを手を変え品を変え言い続けなければなりません。
声楽の勉強はアスリートの通る道に非常によく似ています。
私はよくゴルフに例えて話をしますが、理屈を理解することと体が動いてくれることとは違いますよね。
特に優勝がかかった一打なんて緊張で体が硬くなってうまく打てなかったりします。
「集める」という感覚もわかったようでわからない、特に大きなホールで本番に臨むときは集まってるかどうかも緊張でわからなくなります。
練習してもしてもなかなか本番では思ったようにはいきません。
でもそんなに簡単じゃないからいいのです。
時間がかかっても諦めずに探し求めれば必ず道が拓けるときが来ます。その貴重な宝物を手に入れるために目指し続けられるその人に価値があるのです。
一生勉強。
頑張りましょう!